ある港町でねこは育った。音楽の事となると、穏やかな紳士から程遠くなる
おじいちゃんと階段の半ばで、時に鉛筆をこつこつしながら、世紀の証明に挑む
数学者のお父さんと暮らしていた。
用務員さんの鐘の音、ちょうちょおじさんと聞いた街の音、先生のチェロの音、
時々ねこにだけ聞こえるクーツェの麦ふみの音――つながっている音の中で
またクーツェの麦ふみがねこの耳に聞こえてくる。
あらすじ紹介が難しくて仕方がないが、私のあらすじ説明が下手であろうと
魅力的な本が沢山ある。これはそんな一冊だと思う。
ねこのスクラップブックと音のつながりが、世界の広さと近さを感じさせる気がした。
そして音楽が作る空間がある、ということを思い出させてくれた。
落ち着いた気持ちで、本のページをめくる音も、ねこの音楽になるんだろうか、
などと思った。
いしいしんじ作品は穏やかで、不思議な雰囲気を漂わせている。
プラネタリウムのふたごでは星の瞬きと夜の空気が、この「麦ふみクーツェ」では
クーツェの麦ふみがそれを創っていたように思った。
装丁は文庫版もハードカバーもどちらも好きだが、
初めて読んだ方がハードカバーだったので、そちらを挙げてある。
読みやすさ:★★★★
ぐいぐい読み耽る本というよりは、ゆったりと読書を楽しむ本、という感じ。




